2012年6月17日日曜日

著作権法について考える(1)

6月15日、衆議院本会議で、著作権法の改正案が賛成多数で可決された。たくさんの方々から、SACDのリッピング情報について、今回の改正により危険度が大幅に増したから、もうやめた方がいいとのお話をいただいた。有り難いことで、ご心配頂いた皆様には深く深く感謝申し上げます。

さて、その著作権法改正案であるが、新聞などを見ても詳しく解説してあるものがない。DVDがだめだとか、違法ダウンロードがだめだとか非常に表層的な話ばかりである。普通の人には、はっきりいってよく分からないだろう。

SACDリッピングに関して、著作権法の考え方を整理すると、以下のとおりだ。

● 著作物の複製権は著作権者にあるので、その許諾なしで勝手に複製することは禁止。

● ただし、私的利用が目的ならば、著作権者の許諾なしで複製してもいい。

● とはいうものの、私的利用であっても、技術的保護手段を回避して複製することは認めない。


原則は、私的利用ならは複製は認められているのである。この原則は非常に重要だ。
問題は「技術的保護手段」を回避する複製はだめだという点だ。
それでは、技術的保護手段とは何か?これは大きく二つに大別される。

① 複製を技術的に防止する手段 : これが、コピーコントロールといわれるもので、悪名高いコピーコントロールCDが該当する。

② 暗号化し専用のデコーダーや正規のの機器を使わないと視聴できないようにする手段 : これが、アクセスコントロールといわれるもので、DVD、SACDなどに用いられている。

これまで、①のみが技術的保護手段とみなされ、②は対象外だったので、私的利用に限っては、DVDやSACDの複製は認められていた。

しかし、今回の改正案では、②についても技術的保護手段とみなされることになり、私的利用であってもDVDやSACDの複製はできないということになったのだ。

罰則については、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらを併科であるが、私的使用のための複製については、刑事罰を科すほどの違法性はないということで、刑事罰の対象から除外されている。ただし、民事で損害賠償請求権は認められているので、違法アップロードやダウンロードなどについては、多額の損害賠償請求を起こされる可能性がある。


罰則規定を詳しく見てこのブログの状況を考えてみる。

「以下の者には、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらを併科する。

回避専用装置やプログラムを公衆に「譲渡」し「貸与」し、公衆への譲渡・貸与目的をもって「製造」「輸入」「所持」し、「公衆の使用に供し」、あるいは回避専用プログラムを「公衆送信」または「送信可能化」した者
・機械装置やプログラムを「譲渡」や「貸与」はしていない。「製造」「輸入」もしていない。「所持」はしているが、公衆への譲渡・貸与目的ではない。
・ただし、直接、自分のサーバーから「公衆送信」「送信可能化」はしていないが、リンクは張っている。危険だというのはこのあたりだろう。

「業として公衆からの求めに応じて」回避を行った者
・まったく業としてはやっていないので関係なし。

リッピングの方法や情報をブログで紹介することは、法文のどこを見ても言及されておらず問題とはならない。

ブログでは、装置やプログラムは「所持」はしているが「譲渡」「貸与」「製造」「輸入」などは行っておらず、問題は、リッピング可能なプログラムのダウンロード先にリンクを張っていることあたりだろう。私的利用であれば、刑事罰はなく、損害賠償も起きようがない。しかし、「公衆送信」「送信可能化」となれば、上記刑事罰がある。ことは重大である。

さて、これがリッピングソフトのダウンロード先のリンクにまで及ぶかどうかだ。おそらく、直接ダウンロードできるようなリンクはアウトだろう。ただし、ダウンロードできるホームページを紹介することまでは、規制することはできないだろう。インターネットは、まさにリンクで成り立っているのであり、ホームページへのリンクまで罰則対象にしてしまうとその影響は計り知れない範囲にまで及ぶと予想される。直接リンクでなけば問題ないと思われる。ただし、万全を排するとすれば、ダウンロード可能なホームページへのリンクも削除したほうがいいのかもしれない。


以下は、より詳細な内容。

【著作権法】 (現行法-今回改正案

第2条第1項第20号 (定義)
技術的保護手段について、電磁的方法により著作権等を侵害する行為の防止または抑止をする手段と定義。

この定義のため、著作物等の無断複製を技術的に防ぐ手段(コピーコントロール)は技術的保護手段の対象となるものの、著作物等を暗号化(DVDで用いられているCSS等)することによって、専用のデコーダーや正規の機器を用いないと著作物等の視聴等を行えないようにする手段(アクセスコントロール)は、技術的保護手段には該当しないことになる。

今回の改正    
当該機器が特定の変換を必要とする(暗号化のことか)よる著作物等に係る音を変換して記録媒体に記録し、もしくは送信する方法 が追加された。

すなわち、アクセスコントロールが技術的保護手段に該当することとなった。


第21条 (複製権)
著作者は複製権を専有する
著作賢者に複製権が与えられており、著作者の許諾無しに著作物を複製することはできない。

第30条 (私的使用)
使用目的が「私的使用」であれば複製してもよい
ただし、技術的保護手段を回避して行う複製は除く

一方で「私的使用が目的ならば、複製してもよい」と、私的使用での複製が認められている。ただし、私的使用であっても、技術的保護手段を回避して行う複製は除くとしている。

従って、第2条に従い、コピーコントールによる複製不可で、アクセスコントロールによる複製は可能ということになる。

今回の改正    
「または同号に規定する特定の変換を必要とするよう変換された著作物・・・に係る音・・・の復元。」という箇所が追加された。

「特定の変換」とは暗号化を意味するのであろう。つまり、暗号化された著作物の暗号を解読して復元することも技術的保護手段の回避にあたるとされ、アクセスコントロールによる複製も不可となった。

第120条
(規制の対象)
「技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする」装置およびプログラムと規定

技術的保護手段の回避以外に実用的な意味のある機能を持たないものが規制の対象である。
これは、言い換えると、技術的保護手段以外の機能があるものは規制の対象外ということになる。

今回の改正     
技術的保護手段以外の機能を合わせもつ場合も規制の対象となった。

(罰則)
以下の者には、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらを併科する。
(第1号)回避専用装置やプログラムを公衆に「譲渡」し「貸与」し、公衆への譲渡・貸与目的をもって「製造」「輸入」「所持」し、「公衆の使用に供し」、あるいは回避専用プログラムを「公衆送信」または「送信可能化」した者、(第2号)「業として公衆からの求めに応じて」回避を行った者


こうした行為は、著作権等を侵害する行為であり、著作権者等は、差止請求権、損害賠償請求権等の民事的請求権を行使できる。

ただし、私的使用のために行う各々の複製行為に、刑事罰を科すほどの違法性があるとまで言えず、行為者について刑事罰を科す対象から除外されている。

刑事罰はないが、民事で差し止め請求権と損害賠償権が認めれれている。違法ダウンロードなどでは、例えば1回100円なら、10万ダウンロードで100万円、100万ダウンロードで1,000万円ということになる。

今回の改正     
アクセスコントロールは、コピーコントロールと同様の扱いとなった。



*上記、内容、資料は、文化審議会資料を参考、抜粋した。


(参考)


参考になるのは、かねてから見てきた文部科学省(文化庁)の文化審議会の【著作権分科会/法制問題小委員会】の議事である。今回の改正はここでの審議を元になされたものであり、その要点がよくまとめられている。http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/index.html

特に以下の小委員会は、著作権法30条および技術的保護手段およびその回避規制についての議論であり重要だ。

平成22年第11回 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(2011.12.3)
議事
(1)技術的保護手段及びその回避規制について
(2)権利制限の一般規定について
(3)その他

平成22年第12回 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(2012.1.17)
議事
(1)技術的保護手段及びその回避規制について
(2)契約・利用ワーキングチーム及び司法救済ワーキングチームからの経過報告について
(3)文化審議会著作権分科会法制問題小委員会平成21・22年度報告書(案)について
(4)その他

平成23年第2回  文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(2012.7.4)
議事
(1)著作権法第30条について(関係団体よりヒアリング)
(2)その他

平成23年第3回  文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(2012.7.7)
議事
(1)著作権法第30条について(関係団体よりヒアリング)
(2)その他

直近の文化審議会著作権分科会の報告書

概要:文化審議会著作権分科会報告書(平成23年1月)
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/pdf/shingi_hokokusho_2301_gaiyo.pdf

文化審議会著作権分科会報告書(平成23年1月)
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/pdf/shingi_hokokusho_2301_ver02.pdf




2 件のコメント:

  1. 著作権自体を否定はしませんが法律なんて所詮は穴だらけですから言い訳が通れば合法、通らなければ非合法という事になるのだと思います。

    個人的に社会に悪影響や損害を与えない範囲であればリッピングして音楽サーバーから再生しても法律に抵触するとは言わないでしょう。
    本質的にはデジタルだからコピープロテクトしているだけでアナログ音源でもリッピングする行為は法的な違いはないと思います。

    昨日 友人に頼まれてMacのCPRM保護DVDの再生ソフトを販売店に探しに出かけたら無いと言われました。
    その際にアメリカではデジタル放送にプロテクトなどかけていないからだという話でした。

    Amazonの電子書籍問題が物議を呼びましたが時代の流れで法解釈も変わっていくと思います。

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  2. ばれなければ何ということも無い立ちション便もおおっぴらに公言したり他人に勧めたりすれば問題となる、ということでしょう。
    国内で日本人が管理者のサイトで堂々とリッピングの方法やツールを紹介するのが問題となるだけでまた海外サイトに頼るアングラな時代に帰っていくということでしょうね。

    アングラ情報誌もやり過ぎればおしかりを受ける。そこのところのさじ加減が大切ということでしょうね。
    何にせよ建前として違法化されたことは事実として受け止める必要があると思います。

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