2011年2月23日水曜日

USBと音質

パソコン内部において、楽曲のバイナリデータは、たとえどんなに酷いノイズがあろうとも、電源波形が歪んでいようとも、完全なエラー訂正が行われ、始まりと終わりでデータは一致する。

(ということになっている。しかしハードやソフトが変わると音が変わるので、ほんとうにエラー訂正がしっかりとなされているのか疑わしくなる。)

まあ、原則、パソコン内部では始まりと終わりでバイナリは一致するとしよう。問題は、パソコン内部から外部に向けて出力されたバイナリデータがどうなるのか?だ。考察を簡単にするために、USB出力のみについて考える。

パソコンのデータ転送は、
(OSやアプリケーションソフトやメモリやCPUの速度や負荷状態など様々な要因で)日常的に遅くなったり、早くなったり、途切れたりしている。しかし最終的には、時間が遅れようが途中で途切れようが何度も再転送されてエラーが訂正され、データは元データと完全に一致する。

つまり、データ転送では、エラーが発生するが、時間をかけてエラーを訂正するので、時間さえ気にしなければ、データは完全に元データと一致する。

音楽ファイルの再生は、
しかし、音楽は、遅れや早まりや途切れたは許されない。音楽を聴くには、録音した時と同じ速さで音声信号を流しつ続けることが必要なのだ。立ち止まって再転送をお願いしエラー訂正している暇などどこにもない。

レコードなら、常に一定量の音楽信号が流れるように、ターンテーブルを正確な回転数で回転させることが重要となる。

デジタルデータならば、クロックのタイミングに従って、一定間隔で一定量のバイナリデータを送り続けなければならない。一旦動き出したら、立ち止まることができないので、読込速度、転送速度、受取速度、すべてが同じ速度で動く必要がある。

しかし、パソコンのデータ転送は、転送中の様々な原因で、遅れたり途切れたり早まったりする。この時間軸での速度の揺らぎを「ジッター」という。

一旦FIFOメモリなどに貯めて時間を置いてから、転送をすれば、エラーやジッターは解消される。しかし、パソコンを出た音楽データには休むことは許されない。

パソコンは、HDDから楽曲データをDRAMに転送し、さらに、USBポートのスタックに転送する。この間はエラー訂正が行われる。(ただし、Windowsのカーネルを通ると何がどうなるのか知らないが、データのバイナリが一致しない。ASIOやWASAPIでカーネルを迂回すればバイナリは一致する)。

しかし、USBポートから先、つまりパソコンの外部に出ると、状況は一変する。エラー訂正するかしないかは、USBの転送方式によって異なるのだ。

一般的に音楽データの転送に使われるUSB転送方式は、アイソクロナス転送で、この方式は、エラー訂正を行わない。

立ち止まることなく、次々とデータを次に転送する。途中ジッターが発生し、データが遅れようが早まろうがお構いなしに。

音楽データが、パソコンの最終ゲートであるUSBポートを過ぎると、データはノイズや様々な要因で揺らぐ。USBケーブルを通過する際にも、USBのバスパワー電源のノイズや外部ノイズの影響をうけジッターが発生する。USBデバイスに辿り着いても、水晶発信器やその周辺回路でジッターが発生する。

そして、このジッターまみれのデータが、休むことなく、そのまま、DACに送られるのだ。これでは、まともな音になるはずがない。

そこで、USBデバイス・メーカーは、様々な技術を駆使してこうしたジッターを減少させようと努力している。

アイソクロナス転送の新しい転送方式に、非同期モードというのがある。これは、データを受信するUSBデバイス側が、パソコンに対して、データが不足すれば早く送れと命令し、データが早すぎるともう少しゆっくり送れと命令することで、常に一定のデータ量を一定の速度で転送することを可能にすることで、ジッターの発生を最小限に抑えようとする方式である。

元バーブラウンの技術者であるWavelength社社長のJ.Gordon Rankin氏がこの方式に注目しプログラムの開発に成功した。AyreはGordon氏とライセンス契約を交わしGordon氏のプログラムを使っている。ラトックやフェーズテックは独自開発のようだ。

また、アイソクロナス転送ではなくて、(USB_HDDとの転送に使われる)バルク転送方式や(USBマウスやUSBキーボードに使われる)割込み方式などを独自技術と組み合わせてジッターを減少させようという製品もある。

また、USBにかかるジッターは、USBデバイス内の水晶発振器とその周辺回路自らが発生させるため、回路設計が重要になる。最近は、音質劣化の原因となるPLL回路を使わず、FPGAを使って独自に回路を設計し、ジッター軽減を図るケースが増えている。

こうした努力のおかげで、最近では、USBのジッターは激減し、音質も非常に高音質になってきており、SPDIFより高音質といわれる機器も多い。

PCオーディオの世界は、まだまだ課題が多いが、少しずつそして確実に進化している。

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